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モロッコ便り02~金曜日のフェズ

  • 2019年5月5日
  • 読了時間: 6分

モロッコに来てから早くも1か月が経った。着いたばかりのころは見るものすべてが新鮮で、一日一日がとても濃かったので、時間が随分ゆっくりと進んでいるような感じがしていた。けれど、今週は今までと比べると、割とあっさりと、あっという間に過ぎてしまった。ここでの暮らしに慣れてきたということだろうか。新しい環境になかなか入り込めなかった時は早く慣れたいと思っていたのに、だんだんと慣れてきた今は、慣れたくない、慣れるのが怖いと思ったりする。


先日は、塾長がブログの中で私のnoteを取り上げてくださっていたけれど(ありがとうございました!)、そのなかに書いたように、私は今、ダリジャと呼ばれるアラビア語モロッコ方言を学んでいる。

私が通っているのは、Arabic Language Institute in Fez(ALIF)という語学学校。またの名をAmerican Language Centerという。ALIFと言ってもなかなか伝わらないが、American Language Centerと言えば、「ああ、あそこね」とタクシーの運転手さんをはじめ、フェズに住む人たちは大体わかってくれる、という学校だ。

午前中には、アラビア語とアラビア語モロッコ方言のクラスが設けられていて、私は月曜日から金曜日まで午前中に授業を受けている。

一方、午後には英語の授業が行われているようで、子どもたちを中心に現地の人たちがたくさん通っている。以前、夜の9時近くに学校の前を通ったら、目の前の道には子どもを迎えに来た親御さんたちの車がびっしりと待機していた。そして、授業終了を告げるベルと同時に、小中学生くらいの子どもたちがわっと門から出てくるのであった。なんだか、日本の中学受験対策の塾に似ているなと思った。


そんな語学学校には、カフェテリアがある。

午前中に授業が終わった後はそこでクラスメイトと一緒に昼ごはんを食べ、外のカフェに移動してコーヒーを飲みながら宿題をやる、というのがお決まりのパターンになってきた。




(学校の庭に席がたくさんあって、そこで食べるようになっている。庭は緑がたくさんで、憩いの場。)


こちらに来てからまだ日の浅かったとある日に、このカフェテリアでクスクスを頼んだら、クスクスは金曜日だけなんだと言われたことがあった。

金曜日はイスラームの安息日なので、昼の礼拝が終わると、家族みんなで家に集まって食卓を囲むのだ。この時に食べるのがクスクスなのだそう。クスクスは作るのに時間がかかるのと、家族みんなで食べるものだから、金曜日だけの料理のようだ。

そんなわけで、金曜日には学校内のカフェテリアで、10人ほどの大家族がテーブルを囲んで皆でクスクスを食べている風景を目にすることがある。他の日には食べたくても食べられないので、私も毎週金曜日にはクスクスを食べるようになった。


ついこの間の金曜日、いつものようにクスクスを食べて、宿題を終わらせた後、本屋さんに行きたくなった。私にも読めそうなアラビア語の本や、面白そうなフランス語の本があれば欲しいなと思ったのだ。語学学校と、私の暮らす寮がある新市街にも本屋さんはもちろんあるけれど、せっかくだからと旧市街のほうに行ってみることにした。


旧市街はいつも、たくさんの観光客や、買い物をする現地の人たちで賑わっている。店先の人に「ニーハオ!」「コンニチハ!」と声をかけられることはしょっちゅうだし、少しでも道に迷っていそうなそぶりを見せると、道端の青年が近づいて来て、私の行きたい場所なんて知りもしないで、こっちこっちと言ってきたりする。『モロッコ流謫』の四方田犬彦のことばを借りるならば、「五月蠅(さばえ)なすという表現はまさに彼らのために考案されたものではないかと、いいたくなるほどだ」。まさに。











ところが、本屋さん目当てで旧市街を訪れたこの日は、いつもと様子がかなり違っていた。というのは、何を隠そう、この日は金曜日だったからだ。

旧市街に着いたのは午後3時ごろ。ちょうど昼の礼拝を終えて、それぞれが家でクスクスを食べてゆっくり休んでいる時間帯なのだろう。いつもは賑やかな通りも、ほとんどの店が閉まっていて閑散としていた。





ああ、しまった、これじゃあ本屋さんも今は閉まっているだろうなぁと少し残念に思ったけれど、こんなに人がいない旧市街にいられることもなかなかないだろうから、と気を取り直して、迷路のようなこの旧市街を探検してみることにした。

普段、初めて訪れる場所ではGoogleマップが手放せない私だけれど、この旧市街はGoogleマップに表示されない小道だらけなので、全く使い物にならない。メインロードとも言える2本の通りを軸にして、頭の中に地図を思い描きながら脇道に入っていく。


多くの人がお休み中だとはいえ、観光客目当てでいつも通りに営業している店もあるし、道端でたむろしている若者たちもいる。

人が少ないのをいいことに探検を始めたけれど、人が少ないこの時間帯だからこそ歩いているだけで目立ってしまって、いつも以上に目をつけられやすくなっていることに遅まきながら気がついた。


特にどこへ行きたいという目的地があって歩いているわけではないので、この状況を道に迷っていると言うべきなのかはわからない。ただ、次はどっちに進もうかなと考えながら少し立ち止まっているだけでも、端から見れば道に迷っている観光客に見えるのは確かで、いつも以上に声をかけられた気がする。

「こっちだよ、こっち!」とだけ言ってくる青年には、何が「こっち」にあるのか言ってくれないと、行きたい気持ちは全く起こらないよ、と言いたくなる。

「ここはベルベル人の家だよ!無料だよ!」と声を飛ばすおじさんも、簡単には信用できないような雰囲気を醸し出している。(私の勘が外れていたらごめんなさい。)

「ぼくは学生だからお金取ったりしないから、安心して。案内してあげる」と言う少年も、しつこく言ってくるごとに怪しさが増していく。(あまりにもしつこいので、「ただ歩いてるだけ。私はフェズに住んでるの」と、勉強したてのアラビア語モロッコ方言で言ったら、驚いたような顔をして諦めてくれた。)


こういった人たちから逃げるために、彼らの意思に反する道を選んでどんどん脇道へ脇道へと入っていったら、本当に迷子になってしまった気がして呆然としたのも束の間、突然、メインロードに戻って来た。

自分がどこをどう歩いてきたのか、さっぱりわからない。私の頭の中の地図は、まだ全然うまく描けていないみたいだ。


午後4時ごろ、家族での時間を切り上げた人たちがだんだん仕事に戻ってきて、旧市街は普段の賑わいを少しずつ取り戻してきていた。

これなら帰り際に本屋さんに立ち寄れるかもしれない、ちょうど今歩いている通りで本屋さんを見かけたことがある気がする、と思いながら、帰る方向に向かって歩いていたけれど、結局、本屋さんを見つけることはできなかった。

本屋さんがまだ開いていなかったから見つけられなかったのかもしれないし、前にこの通りで見たという記憶が間違っていたのかもしれない。

いずれにせよ、世界一複雑な迷路の町とも言われるフェズの旧市街の攻略にはまだまだ時間がかかりそうだ。



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