文字をめぐる、いくつかのメモ
- 2019年2月22日
- 読了時間: 4分
…以下は、秋本によるメモである。
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ある日のこもれびにて。ひょんなことから、その場にいた5人ほどで、それぞれの名前を手書きで書きあうことになりました。
自分の字で書く自分の名前はすっかり見慣れたものですが、他の人に書いてもらうとまったく違った新鮮なものに見えてきます。手書きの文字には、その人の癖や性格、さらにはその時々の感情までもが表れるのでしょう。
手書き文字の持つ味わいに改めて心動かされた体験でした。
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手書き文字について考えていると、現在、上野の東京国立博物館で開催されている特別展「顔真卿―王羲之を超えた名筆」のことを思い出しました(会期は2月24日まで)。
唐代の書家顔真卿の書を紹介する展覧会で、中でも「祭姪文稿」という作品の人気は凄まじいようです。この「祭姪文稿」は、安史の乱で命を落とした親族を悼む弔文の原稿で、普段は台北の故宮博物院に所蔵されているもの。滅多に見られるものではないとのことで、わざわざ中国本土から見に来る方もいるとか。
先日Eテレの『美の壺』という美術鑑賞番組でこの作品を扱っていたのですが、つぶさに見ると筆の運びに顔真卿の深い悲しみが表れており、まさに圧巻。悲しみに揺れる心のままに細い線が揺れていたり、激情のままに太い線が跳ねていたり。「書は人なり」という言葉がありますが、「味わい」という表現では表しきれない、まさに生き様そのものです。
会期終了ギリギリに滑り込めたらよいのですが、はてさて、どうなることやら。
<Paage.03>
先ほどの『美の壺』では、「漢字の統一」ということについても語られていました。それまでの漢字は各地でバラバラだったのですが、紀元前221年に中国を統一した秦の始皇帝が漢字も統一。国家の統一には文字の統一が不可欠、ということだったのでしょう。
ところでそれを観ていた私は「なるほど、統一ねぇ」と思いながらも、各地でバラバラだった漢字にも愛おしさを感じたのでした。
統一化・標準化されたツールは機能性に優れるため、たしかに使いやすいものです。そのことは工業製品のことを考えると分かりやすいかもしれません。優れた工業製品は計算されつくしたデザインを身にまとい、「機能美」とも呼べる美しさすら感じます。
ですがその一方で、例えば手作りの食器のように、必ずしも洗練されてはいないけれども一つひとつに違った表情があり、いくつも手に取ってみるうちに自分の手にしっくりと馴染む一作に出会えるようなものにもまた、工業製品とは異なる美が宿っています。
皆さんはどちらの「美」がお好みでしょうか。どちらも人間が作り上げてきたもの、という点は共通していますので、どちらが正解というものではないと思います。自分がどのようなものに惹かれるのかを知ることもまた、「自分を知る」ことの第一歩といえるでしょう。
<Page.04>
国分寺(こもれび)→上野→中国と旅をしてきましたが、ここで東京・西荻窪に戻ってきましょう。
先日、西荻窪のとあるレストランを訪れました。席に案内していただき、おもむろにメニューに目を落とすと…そこには不思議な文字が書かれていました。。


一見すると日本語に読めない。けれども、よくよく読んでみるとたしかに日本語。横線が極端に太く縦線が極端に細い点や、独特な形をしている点がまるで外国語のように感じられた理由かもしれません。
市販のフォントではなかなか醸し出せないこの雰囲気。やはり、文字というのは興味深いものです。
こちらのお店は、西荻窪駅ほど近くにある「三人灯」さん。メニューと同じくお料理も美味しいので、ことばや文字が好きな方にもおすすめですよ。
東京都杉並区西荻南3-17-5
https://hanako.tokyo/shop/5951/
<Page.??>
さて、明日2月23日(土)は、「こもれびよりVol.5~言葉の形」の開催日。案内文には「世界には無数の文字が存在します。目で見る言葉の歴史と形を一緒になぞってみませんか?」と記載されています。
この記事で触れたのは日本語と中国語の文字だけ。仮に漢字と同じ象形文字のことを考えてみても、ヒエログリフや楔形文字などその種類は様々です。さらに言えば、ピクトグラムや絵文字も、立派な「文字」です。また、ジェスチャーなども、書き表すものではないですが「決められた形を作り、決められた意味を伝える」という意味ではある種の「文字」と言うこともできるでしょうか。…そう考えると、はたしてどこからどこまでが「文字」なのか、よく分からなくなってきてしまいました。
明日の「こもれびより」ではどんなお話が聞けるのか、私も今から楽しみです。お時間のある方はぜひ、14時に国分寺の語学塾こもれびにお越しください。
https://www.commorebi.com/commorebiyori
お申込みは、
gogakujuku.commorebi@gmail.com
まで。
秋本 佑
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