仏検とDELF・DALF
- こもれびスタッフ
- 2018年6月22日
- 読了時間: 6分
こんにちは、こもれびの志村です。
私事ですが、去る17日(日)にフランス語検定、通称 “仏検” 1級を受けて参りました。
仏検は、公益財団法人フランス語教育振興協会が年に二度実施する試験で、5級からはじ
まり4、3、準2、2、準1、そして1級と進むごとにレベルが上がります。
ただ、こと1級は「重箱の隅をつつくような問題」と揶揄されることも多く、今回は例に
漏れず僕もその餌食となったわけです。
と、仏検の愚痴はまたあとにするとして、みなさんはDELF/DALFという試験をご存知でし
ょうか?
日本ではまだあまり知られていませんが、こちらはフランス政府が唯一公認したフランス
語資格で、世界中で認知されています。
日本でも、フランス留学を目指すような方は受ける機会が多いんじゃないかと思います。
今回は僕なりに、この二つの試験はどう違うのか、どちらを受けたらいいのかなどをまと
めてみたいと思います。
1 仏検
ということでまずは仏検から。
言わずと知れた(?)検定試験で、フランス語を勉強する方の多くがこれに心血を注ぐので
はないでしょうか。
ただ、多くの検定がそうであるように、いくら仏検に受かったところでフランス語が話せ
るようにはならないし、また、いくらフランス語が話せるようになったところで仏検に受
かるとも限りません。
どういうことか。
仏検は言うまでもなく日本人のために作られた試験です。試験問題も全て日本語で書かれ
、日本人、あるいは日本語を理解する人が受けることが想定されています。
そしてそこで出題される問題の多くは、なじみの受験英語に毛が生えたものと考えてもら
って差し支えないように思います。
つまり、筆記では語彙穴埋め問題、前置詞選択問題、単語並び替え問題、長文読解(記述回
答式や正誤問題)に和文仏訳、そこにディクテーションやリスニングが加わります。
ここまでが一次試験なわけですが、おーーーーーきくひとまとめで言うと、
“インプット” に大変な比重が置かれているのがわかります。
一応二次試験(面接)もあり、準1級や1級では一筋縄ではいかない関門となりますが、たと
えば準2級のそれはとってつけたような、まるでマ○ゴトのような代物です。
ということは、少なくとも準2級までは、「インプット」さえ心得ていれば及第点をもら
え、無事合格となるわけです。アウトプットはほぼ必要なし。
「日本人は受け身だ」と言われて久しいですが、こういったシステムでフランス語の “レ
ベル” を測定しているようでは、返す言葉もないかもしれません。
では仏検を受けるのは全く無意味かというと、そんなことはありません。
現に僕も今回1級を受けるまでに4級、準2級、準1級の受験歴がありますし、それに費やし
た勉強はなにかしらの形で血となり肉となっているように思います。
ただ、フランス語教師として思うのは、やはり仏検だけ受けていても仕方がないというこ
とです。
仏検はあくまで “目安”、それも文法や語彙、読解力など粗方「インプット」のみに限定さ
れた能力を計るための目安に過ぎないのです。
だから、モチベーションの一つとして、あるいは自分の力試しとして利用するのはいいと
思いますが、仏検を “最終目標” にしてしまうのはなんだか本末転倒です。
また、仏検の「級」で人のフランス語レベルを一概に判断するのも禁物かと思います。
2 DELF / DALF
かなり “偏った” 仏検に比べ、こちらは非常にバランスのとれた試験です。
Compréhension écrite (読解 – 目からのインプット)、Production écrite (作文 - 手からのア
ウトプット)、Compréhension orale (聴解 - 耳からのインプット)、Production orale (口頭発
表 - 口からのアウトプット)と、満遍なく能力が求められます。
そしてこの4つのパートにそれぞれ25点が割り当てられ、合計100点満点。そのうち50点を
取れば合格、と採点基準も単純明快です。
言葉を使うとは本来、めちゃくちゃ複雑なことなのです。
頭の中はそれはもう混沌とした、果てのないカオスです。
身に覚えのないという方、今まさに、この日本語の文章を読んでいるあなたの頭の中がそ
うなのです。そしてあなたは同時に、そのカオスに秩序を与えることができます。なぜな
ら日本語がわかるからです。
脱線しそうなので話を戻すと、DELF/DALFは上記の4パート(通称 “4技能” と言われたりし
ます)に等しく比重を置いた、一見素晴らしいテストのようです。
(仏検では、口をほとんど使わないのでしたね。言葉でいちばん活躍するのは口のような気
もしますが。)
ただもちろん、完璧なテストなどといったものは存在しません(完璧な絶望が存在しないよ
うにね)。
レベルについて紹介すると、A1から始まりA2, B1, B2 という風に上がっていきます(ここ
までがDELF)。そしてC1, C2 になるとかなりの上級と言えます(こちらがDALF)。
ただ、繰り返すようですがこれはフランス公認のテスト。つまりフランスで作られるわけ
で、試験の問題用紙はどこをとってもフランス語です。
ここでまったくの初心者だと、そもそも「問題文がわからない」というジレンマに突入す
ることになります。
フランスで作られているのです。日本人が読むなんて、そんなことはお構いなし。
容赦なく、フランス語で質問を投げかけてきます(読解も面接もなにもかも)。
悲しい哉、日本語とフランス語はあまりにもかけ離れています。
いきなり「さぁ、わかりますか?」と言われてわかるはずがないのです。
そこで、一からフランス語を始める方だったら、まずは仏検を当面の目標にしてみること
をおすすめします(仏検を毛嫌いする人はだいたい文法が苦手で、その気持ちはわかるので
すが、この段階で文法をおろそかにするとあとで自分の首を絞めることになります)。
フランス語で書かれた問題文を読み解くくらいの読解力は、十分に身に付くはずです。
次いで、それ以上を目指す方は、仏検には適当なところで見切りをつけてDELFに鞍替え
するのも一つの手です。
総合的なフランス語力、という意味では間違いなくこちらに分があります。
あくまで一つのモデルですが、たとえば仏検を3級か準2くらいまで受けて、DELFをA2あ
たりから挑戦する、というのもありではないでしょうか。
ただ、究極的には、別に試験など受けなくてもいいのです。
留学などの必要に迫られているわけでもなく、誰に脅迫されるでもなく、ただ自分のため
に勉強しているのであれば試験を受けることは必須事項なんかではありません。
テストは上達具合を確かめるための手段。
目的は上達することそのものであって、これがひっくり返ってはいけません。
結局、自分のペースでやるのがいちばんですね。
さて、巻き戻って17日。
東京会場である青山学院大学の大教室に集う仏検1級受験者は思ったより数も多く、総勢
200人くらいはいたような気がします。そしてその四分の一ほどを占めるのが、60歳は超
えているかと思われる白髪の紳士淑女の面々。
そんな彼らを挑発するように、筆記試験最終大問(和文仏訳)は以下の設問にて幕を閉じる
のでした。
「年をとっているだけでは尊敬されない時代だ。老人が尊敬されるには実力がなくてはな
らない。実力がないなら金がなくてはならない。どちらもないなら、せめて実力か金があ
ると思わせなくてはならない。多くの老人はどれも不可能だと考えて、はなから尊敬され
ることをあきらめている。」
会場のみなさん…まぁ、仏検1級を受けるくらいフランス語がお出来になるので、少なく
とも「実力」はありますよね。心中お察しします。
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