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はじめまして

  • 執筆者の写真: こもれびスタッフ
    こもれびスタッフ
  • 2021年5月31日
  • 読了時間: 3分

翻訳にもいろいろあって、簡単な翻訳と難しい翻訳がある。 


たとえば何か動画の翻訳を試みるとして、ある程度の経験があれば、簡単なのは何気ない日常会話。今のご時世だったら、コロナ禍でどう影響を受けたかとか、この先どうなっていくんだろうねとか、おそらく誰もがその種の会話を経験しているだろうし、口から出ることは住む場所が違えどそう変わらない。話者の意図を汲むのもそれほど難しくないし、それができてしまえば、その内容にふさわしい日本語を選び取ることもたいして時間や労力をかけずにできる。


難しいのは、やはり専門性のあるものだろう。自分も馴染みのある領域ならいざ知らず、完全に門外漢となるような分野の翻訳ではまず語彙で大きく躓く。見たこともない専門用語もたくさん出てくるし、知っている単語も自分が思っているのと違う使われ方をしていたりする。よってひたすら辞書とにらめっこをすることになる。辞書に載っていなければ、ネットを駆使したり他のあらゆる手段を使って適当な訳語を探さないといけない。


先日、久しぶりに「難しい翻訳」をした。それはフランスの地方でクラフトビールの醸造を行っているところの紹介動画で、工房のオーナーが実際に原料からビールを造る工程を見せながら話しているのを訳すというもの。

« empâtage » という単語が出てきて、辞書を引いてもそれらしき意味は見当たらないのでいろいろ調べていくうちに、どうやらこれは日本語で「糖化」というのだとわかった。ビールを普段それほど飲むわけでもないし、ましてビールの製造工程に興味を持ったこともなかったから、「糖化」と言われたところでそれが何を指すのかピンと来ない。見ていくと、この糖化- « empâtage » という工程は麦芽をお湯と混ぜ、そこに含まれるデンプンを糖に変え、甘みのある「麦汁」にする作業、とのこと。こんな具合にビール造りに詳しくなる。

こういう、いかにも専門用語というものもあれば、もっと平板な単語が何食わぬ顔で近づいてくることもある。« houblon » という単語がそうだった。発音も難しくないし、 « empâtage » のいかにも(動詞から派生しました)感もそれによる厳めしさもない。なのに、見たことがない。なんだろうと調べてみるとこちらは普通に辞書の項目にあった。「ホップ」。それだけである。特段ビールを嗜まないので、というのが原因かはわからないけれど、この単語は初めてお目にかかった。なるほど « houblon » がホップで、つまり « houblonnier » はホップ栽培者。似たような人とはたくさん会ったことがあるので仲良くなるのにそう時間はかからない。


こういうことは意外とよくある。そういえば昔は「エプロン」をフランス語でなんと言うのか知らなかった。それを « tablier » と言うのだと知ったのは、フランス政府公認語学能力試験最高レベルのDALF C 2を取得した後のことである。辞書を引けば重要単語の印として赤字で載っている。なのに、フランス語を始めて少なくとも丸3年は一度として出会うことがなかった(あるいは、すれ違っても気づかなかった)。

もう少しで9年が経とうとしているけど、たぶんまだ草むらを覗けば「え、そこにいたの?」という単語が転がっているはず。そのときはまた、いつもの挨拶からはじめることにしよう。

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