語彙力の公式
- 2019年10月25日
- 読了時間: 3分
「わたし語彙力に自信がないんです」
と言う人が次に言う言葉はだいたいこうだ。
「もっとたくさん単語を覚えなきゃ」
きっと昔なら聞き流していただろうけど、語学教師になった今これを目の前で口にする人がいるとつい「本当にそうですか?」と言いたくなってしまう。
たくさん単語を覚えること、が悪いと言いたいわけではない。
たくさん単語を知っていることが悪いことであるはずがない。
ではなんでこの科白を好きになれないかというと、こう言うとまるで「語彙力を上げる」には「知っている単語を増やす」しかないみたいに聞こえるからだ。
痩せたいという人が血眼になって「食べる量減らさなきゃ」と言っているとしたら、いや、生活習慣変えたら?とか運動したら?とか言いたくなるのと同じように、僕も脇目もふらず「単語を増やさなきゃ」と言っている人にはいろいろ物申したくなってしまう。
でも、そもそも “語彙力” とは何だろう?
コトバンクによると、語彙力とは〝その人がもっている単語の知識と、それを使いこなす能力〟のことらしい。
これを見れば明白だが、語彙力は “知識” だけではない。つまりそれを上げるためには「単語を覚える=知識を増やす」ことももちろん重要とはいえ、本来なら「能力をあげる」ことも同じくらい重視されてもよいはず、ということだ。
ここでわかりやすく (できるかわからないけど) するために、これを公式化してみよう。
まず、語彙力 ≠ 知っている単語の数 (知識)
になるのはよいとして、
語彙力 = 知っている単語の数 × それを使いこなす能力
と言うことができそうだ。
「単語の数」はわかりやすいが、ここで問題なのは「使いこなす能力」の方だろう。
これはどう定義したらいいか?
僕なりに展開するなら、
(単語を) 使いこなす能力 = 個々の単語の理解度 (広さ、深さ) × 単語間の切り替え速度 (速さ)
さらにそれぞれ定義すると、
広さ:個々の単語の意味領域の拡がり、面積。代表的な意味だけではなく副次的な意味まで理解できているか。
深さ:語の本質に関わる解釈の深さ。辞書的な理解だけでなく、本質的なイメージをとらえられているか。
速さ:違う語が同じ意味を表したりすることに気付けるか。その組み換えを、素早く柔軟に行うことができるか ≒ 文法力
という風になる。よってまとめるなら、
語彙力 = 知っている単語の数 × それを使いこなす能力
= 単語数 × 広さ × 深さ × 速さ
こう見ると、「語彙力を上げたい」なら闇雲に「単語数を増やす」んじゃなくて、辞書や本を読んで理解を「広げ」たり、語源や形態を学んで「深め」たり、文法を勉強して単語同士の切り替えを「速め」たりするのもいいのでは、と思うのだがどうなんでしょう。
もちろん一つだけ上げるより、せっかくなら全部上げちゃった方がいいのだが。
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