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記憶も記録も

  • 2019年2月15日
  • 読了時間: 4分

皆さんの一番古い記憶は何ですか?

私は最近、自分の記憶力に不満がありまして…

脳が覚えていられる量には限りがあるので、必要なさそうな記憶からどんどん捨てられていって、本当に覚えておかなければいけないことのために頭の容量を空けているのだと思います。でも、この取捨選択は私の脳が勝手にしていることで、私自身の意思が無視されているように感じることが最近よくあるのです。

忘れたくなかったことが、気がついた時には頭の中からすっぽり抜け落ちていて、悲しい気分になります。絶対に忘れたくないと思っていたはずことは覚えていないくせに、しょうもないことはよく覚えていたりして、なんだかなぁと思います。


人の記憶は当てにならないこともあるし、いまさら脳の機能に文句を言っても仕方ないので、このことを嘆くのはやめて、私は記憶を引き出しやすくするための記録に頼ることにしました。

最高に楽しかった出来事や、本の読後感、心動かされた景色など、些細な日常であるがゆえに忘れ去られてしまいそうなこと、年を重ねたら感じ方が変わるかもしれないもの。そんな忘れたくないことたちを文章や写真に残しておいて、未来の自分が「あれ、全く覚えてない…」と、悲しい気分にならなくていいようにしたいなと思っています。


こんなことを考えるようになったのは、先日、昔の自分が書いた作文が発掘されて、忘れかけていた思い出が鮮明に蘇ったからでした。


見つけたのは、私が小学一年生の時に書いた「フィリピンのともだち」という作文でした。

私は、1歳から6歳になるまでの間、フィリピンの首都マニラに住んでいたんです。

ほとんどがひらがなとカタカナで綴られたその作文には、題名の通り、フィリピンに住んでいた頃の友達のことが書かれていました。


「わたしはいつもヤナのいえであそんでいました。ヤナのいえには、にわにプレイルームというところがありました。そこには、つくえとクレヨンとゲームとカードがありました。わたしはいつもそこであそんでいました。ルシオのにわには、おおきなおおきなプールとトランポリンがありました。トランポリンは、いちどに十人とべるくらいの大きさでした。みんなでとぶととてもたのしくて今でもよくゆめにでてきます。」


こんな風に具体的に書いてくれているおかげで、今の私はフィリピンで暮らしていたときのことをだんだんと思い出してきているよ、とこれを書いた15年前の私に伝えたいですね。

6歳だった当時の私が作文の題材にしたのは、フィリピンでの暮らしぶりでも、マニラの町の様子でもなくて、身の回りの友達だったのであって、私の目にはその範囲のことしか映っていなかったのだということも感じ取れます。


というのも、この作文が載っている文集の次のページを開くと、ちょっとどきりとする文章があるのです。

それは、同じくフィリピンのマニラに住んでいた一つ上の学年の男の子の作文でした。

「マニラのこと」と題したそれは、私の作文よりも少し漢字が多いものの、幼稚園のことや日本人学校のこと、マニラはとても暑い、といったことが小学二年生らしく書かれていました。

でも、読んでいく中で「そうそう、フィリピンのバナナは美味しいよね〜」などと油断していたら、急にこんなことを書き出すのです。


「マニラでは自ゆうに公園であそんだり、自分でお買いものをしたりできません。マニラは日本みたいにみんなで楽しく歩いてはいけません。」


突然現れた、現実を突きつけてくるこの二文に私は一瞬固まりました。

小学一年生だった私は、当時このことを全く認識していなくて、のんきに友達と楽しく遊んでいたのに、一歳年上のこの人はこんなことをわかっていたのかと。

「マニラに住んでいた頃は、よく家の外から銃声が聞こえてたんだよ」と私が母から聞かされたのは中学生になってからのことでした。よくよく守られていたおかげでこのことを知らずに済んでいたのか、私の脳が勝手に記憶を消してしまったのかはわかりませんが、私のマニラでの生活は楽しかった記憶で彩られていました。


記憶も記録も、自分のフィルターを通してなされるもの。

記憶は時間が経てば経つほど美化されていくものだし、記録は気づけば自分に都合のいいことばかりになってしまうけれど、どんなことも自分の糧になるのだと噛みしめながら、自分のフィルターをぴかぴかにしておいて、色々なところに目を向けていきたい。

こんなことを私は、小学一年生の時の私と小学二年生の男の子から感じさせられたのでした。



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